蒐記 <第六話> ~暗理地死~

※この物語はフィクションですのであしからず。現実と虚構の区別がつかない方は読むのをご遠慮下さい。



1993年3月22日に、T都、C県で、宗教団体が空港で起こした、フッ化水素酸を使用した同時多発テロ事件で、死者を含む多数の被害者を出した。警察庁による正式名称は空港構内毒物使用多数殺人事件である。この事件は日本だけでなく、世界にも大きな衝撃を与えたケミカルテロである。



 「水へ~リ~ベ~僕の船~~な~に~まがアルシップスくらーくか?」
どこかで聞いたことがあるような単語を並べながら一人の男が部屋に入りかけた。しかし一歩部屋の中に踏み入れた瞬間、尋の背中に冷たい氷柱をぶち込まれたような戦慄が走る。(コイツは魅入られてやがる。しかも大変お気になようだな。)心の中で一度深呼吸すると一歩、また一歩と部屋の中に入る。
 「いやぁ~、大教祖様に直に会えるなんて恐悦至極っつ~感じっすね♪いやマジで。死ぬ前に遭えて本当に良かった。まぁ死ぬの俺じゃないんすけどね~。ね?『死刑囚』さん」
 「・・・」
再度改めて見ると、髭を蓄えた中年太りしている男が焦点の所在を失っている虚ろな目でこちらを見ている。ような気がした。実際は俺の遙か先の次元に意識を飛ばしているのだろう。空っぽな器。それはもはや死体同然。これが死刑執行できない1つの理由なのではないだろうか。死体に鞭を打つ事なんて『人間』であるならできるはずがないからな。しかしコイツはその『人間』であることの一線を軽く踏みにじりながら余裕綽々と超えて行きやがった。まさにコイツが求めていた『神』か『仏』にでもなるが如く。
 「おまえさん、今回使用したフッ化水素酸だがこんなのよく知っていたな?まぁだいぶ前に製薬会社を立ち上げたからそのときに知ったのか。これに目をつけるとは神ではなく悪魔だな。経口最小致死量1.5〔g〕、皮膚に触れば骨まで一気にメルトダウン。原発もびっくりな代物じゃねぇか。身体は腐り、その痛みに精神も耐えきれずにやがて死ぬ」
 「・・・」
男は何も語らずただただその場にいた。口の端から涎を垂らしながら。
 「おっ?演技派だねぇ~。だが生憎今演技してもお前の執行は確定している。そんなもんはいらん。これ以上エスカレートして脱糞でもされても困るからな。この場所はあくまで『お客様をもてなす応接室』だからな。他の『お客様』がもてなせなくなるだろ?」
(コイツはもうダメだ。この男ももうすぐだろう。弄ばれ飽きれば捨てられるのみ。世の常か。まったく、救いがないねぇ~この世って奴はよ。だがしかし、途中で投げ出すのは俺の美学に反するからな。まぁやるか)
おおげさに足を組み、顎に手をかけながら問う。
 「単刀直入に聞く。教団の目的は何だったんだ?」
 「・・・」
 「金か?」
 「・・・」
 「社会的地位・名誉か?」
 「・・・」
 尋がにやけながら言う。
 「それとも腐ったこの世への復讐か?」
ギョロリ。一瞬この悪魔と視線を交えたような気がした。
 「・・・」
しかし再度見やるとそれはいつもの死体となっていた。
 「アンタ、アレなんだってな?先天性で昔から左手首から先が動かないとか。その原因は公害によるもの」
尋は右手で左手首を摘まみながら男の前でブラブラと振ってみせる。しかし、相変わらず死体だった。
 「ちょいとアンタの事を調べさせてもらったんだが・・・あっ、この台詞一度言ってみたかったんだ。俺の夢の1つがまた叶った♪」
ゴホン。
 「え~となんだっけ?あぁ思い出した。アンタの兄姉全員先天性の病気を持ってんだな。長男は全盲、長女は聾唖、そしてアンタ。その全てが公害によるものとされている。だからこのテロを起こす一週間前に一度フッ化水素酸を川に流したんだろ?自分と同じ境遇を人々に追体験させるために」
 「・・・」
 「まったくくだらねぇぜ。そんな発想凡人以下じゃねぇか。大教祖様が聞いて呆れる。太陽(神)に近付きすぎて翼を焼かれて地に堕ちたってか?笑えねぇ冗談だぜ。最後の時までに1つ教えといてやる。『捨てる神あれば拾う神あり』と言うけれど、場合によっちゃあ拾った神様が捨てる神に変わる場合があるから気をつけな。まぁ時既に遅し、かぁ・・・」
 「・・・」
男は最後まで微動だにしない完璧な死体であった。
 「ちっ、んじゃなぁ。今後のアンタの魂と俺の高貴な魂が相見えることは決してないだろう。だからさよならだ」
尋はその言葉を残し部屋をあとにした。残るは死体と化した死刑囚。部屋の中には換気扇では能力不足なほど嫌な臭いが立ちこめていた。



 「ふぅ~」
尋は一人たたずむ廊下で深呼吸をしていた。
 「尋さ~ん」
遠くから男が近寄ってくる。
 「お疲れ様です!!」
 「あぁ、ところでお前タバコ持ってるか?」
 「すいません、僕は吸いませんので。痛い、止めてくださいよ。今のはたまたまですって。ってあれ?尋さんってタバコ吸われるんですか?」
 「いんや?死ぬほど大嫌いだぜ?ただそれ以上に嫌なもんを嗅いじまったからな」
 「ん?」
 「俺も堕神様(おちがみさま)にあそこまで愛された奴見るの久しぶりでな」
 「はぁ・・・」
 「情状酌量の余地がねぇ」
 「まぁ死刑囚ですからね」
 「そういうことじゃねぇ」
ゴツン。
 「痛っ」
 「そんなことより今日の飯は繁盛食堂に行くぞ」
 「ってことはソースカツ丼ですか?」
 「いんや。今日はチキンライスだな。(ちょっとばかしチキンになっちまったからな)」
 「ほぇ~珍しいですね」
 「まぁたまには違った刺激が欲しくなるんだぜ。それより車を早く準備しろ」
 「了解です!!」


to be continued→


web拍手 by FC2
<後記>
我ながら「テロリスト」というテーマを扱っておきながらテーマが重すぎて途中で収拾不可能になりました。おかげでこれ書くだけで相当時間を費やしましたね。まぁ蒐記自体『犯罪』というテーマなのでどれも重いんですけどね(苦笑)。


最近もよく至る所で銃乱射やらトラックで突っ込むとかがありますね。だけど個人的に一番ヤバいテロは生物兵器だと思います。まさにバイオ・ハザード(生物災害)。国際社会であるこのご時世、一度発動したらパンデミック的に感染してほとんどの人類が滅びるでしょうね。まぁ諸刃の剣。次に怖いのは今回取り扱った化学兵器(核兵器も含む)。今年4月にシリアで使われてしまいましたね。実際の動画があったので見ましたけど痛ましいですね。人々が口から泡を吹き出し、魚のように口をパクパクさせながら苦しそうに息をしている。中には子供までいる。戦争したきゃ死ぬ覚悟がある奴だけでやれ。関係ない人を巻き込むな。



 「で結局タバコは吸われたんですか?」
 「いんや?このチキンライスが俺を癒やしてくれてるから問題ない」
 「そーすか」
 「つど~ん!!」
 「痛いッ!あっ、ちょっと尋さん!!たった3つしかないんですから」
尋が後輩のソースカツを1つ奪い取り口の中に放り込む。
 「やっぱりソースカツ丼だな。代わりにこのチキンを恵んでやるよ」
 「って全然サイズが釣り合ってないじゃないですか!」
 「あらそう?んじゃ俺が食べてやる。あ~ん。う~ん、でも今日はチキンライスだな」
 「僕のチキン・・・ぐすん」



最後までお付き合い頂きましてありがとうございました。


スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

カレンダー
05 | 2018/06 | 07
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール

DEMENT

Author:DEMENT
現在社畜6年目。
趣味がアニメ・ゲームというごく普通の人です…。詳細はプロフィールにて!!
当ブログは本音8割嘘2割で構成されています。嘘だけど。

目標
勇往邁進!!
まず動く。

今週の目標
アニメを観る
ゲームをやる

最近ハマっていること
・白猫プロジェクト
・アイドルマスター シンデレラステージ
・日本酒
・寝ること

最近の更新時間
休日の夜

お知らせ
・更新してないブログはリンクから外させて戴きますのであしからず。

6月のよてゐ
月曜日・・・会社
火曜日・・・会社
水曜日・・・会社
木曜日・・・会社
金曜日・・・会社
土曜日・・・ゲーム
日曜日・・・ゲーム

会社関係
6月   社内改善
    教育(改善) 
    改善報告会

その他
何かあればどの記事でもいいのでコメントを。

【東方】風見幽香の時計
フラッシュアニメを見るにはプラグインが必要です。
画的起源
バオー来訪者
君の意見を聞こうっ!!
無料アクセス解析
カテゴリ
”オーエン”サイト
おすすめリンク
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
フリーエリア
タイピング

Flasco | ネネタァ!!
アニメPV&名曲集
presented by 原作アニメ.com
算数力トレーナー
by Orfeon
Flashリバーシ
by Orfeon
最新トラックバック
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード